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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)219号 判決

一 請求原因(一)ないし(三)の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要旨)については、当事者間に争いがない。

二 ところで、本件審決は、引例2中に本願発明にかかる合金と一致する合金成分(審決では「主要」合金成分と表現されているが、その意味は、不純物とみられるものを除いた、必須合金成分をいうものであることが、本件弁論の全趣旨から明らかである。)組成範囲を持ち合金中に析出硬化相を持つものが記載されているとし、これを前提として、本願発明が引例1及び引例2から容易になしえたものであるとしているので、まず、右の前提とされている点について考察する。

(一) 一般に、合金において、その組成成分の僅かな変化が合金の特性に影響を与えるものであること、及び、本願発明における「何%以下」との表示には〇%が含まれていないことについては、当事者間に争いがない。

(二) ところで、いずれもその成立に争いのない甲第二号証、甲第七号証、甲第一〇号証(本願発明の明細書、補正書)及び甲第四号証(引例2)によれば、本願発明及び引例2の各合金の組成は、請求原因四の1の(2)の表に記載されたとおりであるほか、本願発明においては、ニオブ、タンタル一・八~二・八%が含まれて良い旨が明細書の発明の詳細な説明欄に記載されており(甲第二号証第二頁下から第二行、第五頁下から第四~第二行)、一方、引例2には、不純物として、鉄最大〇・二%、マンガン〇・一%以下、けい素〇・一%以下、硫黄及び燐各〇・〇一五%(甲第四号証第一ページ左欄下から第一二行、同ページ右欄第一〇~第一三行、同欄第一九、二〇行及び第二ページ第一表、第三表)が許容される旨記載されていることが認められる。

(三) 右(一)及び(二)の事実に当事者間に争いのない本願発明の要旨、前記甲第一〇号証をあわせ考えれば、本願発明において含んでも良いとされているニオブ、タンタルは特許請求の範囲に記載されていないので、本願発明の合金の必須成分ではないと認められるが、特許請求の範囲に記載されているジルコニウム及び銅(引例2には記載されていない。)並びにマンガン、けい素及び鉄(引例2では不純物として記載されている。)は、いずれも本願発明にかかる合金の成分として必須のものであると認められる。

(四) ところで、被告は、本願発明にかかるような種類の合金では、マンガン、けい素、鉄等は不可避的に混入する不純物であり、引例2においても同様であるから、本願発明の合金と引例2の合金が同じ組成でないとすることはできない旨主張する。しかしながら、この主張は採用できない。その理由は次のとおりである。

1 引例2には、ジルコニウム又は銅については何らの記載もなく、これらがマンガン、けい素、鉄等と同等のものでニツケル基合金に不可避的に混入する不純物であることについては、これを認めるに足る証拠がない。

2 不純物は、本来、合金にとりその存在が望まれるものでないことは被告の自認するとおりであり、不純物は存在しない方が良く、存在してもより少量の方が好ましいことは明らかであるところ、前示のとおり、本願発明の合金成分には、引例2に記載されていないジルコニウム及び銅があり、また、鉄、マンガン及びけい素については、その最大限度量が引例2に比してたとえば鉄について二〇倍であるなど相当に多量である。この点に関し、被告は、成立に争いのない乙第一号証の二第四七三ページ(3)の記載を例示して、粉末冶金法による場合は通常の溶解鋳造により製造する場合より不純物の許容限度の制約がゆるやかであるといえる旨主張するが、右記載は粉末冶金法により溶解法では作りえない合金を作りうることを示しているのみで、不純物については触れるところがなく、他にも被告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、この量の面からみても、本願発明においてジルコニウム、銅、マンガン、けい素及び鉄を不純物とみるのは合理的でない。

3 合金においては、たとえ微量成分であつても、その合金の性質を改善するものであるならば、それはもはや不純物といえないことはいうまでもないところである。そして、本件口頭弁論の全趣旨によれば、ジルコニウム及び引例2に記載の最低量より少ない量のほう素の添加により合金の性質を、破断寿命で一三倍、伸びで七倍、破断応力で一・九倍、クリープ速度の応力依存度で三・七五倍等、改善することができることが認められるから、少なくともジルコニウム及びほう素は、本願発明の合金において不純物であるとすることはできない。

(五) 以上によれば、本願発明の合金組成が引例2に記載されたものと同一であるとすることはできないものといわなければならない。

三 そうすると、本願発明の合金組成が引例2に記載されて公知のものであることを前提とする本件審決は、その前提についての認定の誤りにより、判断を誤つた違法のものといわなければならず(成立に争いのない乙第一号証の四第四七六ページ(4)の記載によれば、粉末冶金法は、組成公知の物質に対してでなければ、適用が困難であると認められる。)、右判断の違法が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、他の争点につき判断するまでもなく、これを取り消すべきものである。

四 よつて、本件審決を取り消すこととする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

モリブデン三・五~六%、アルミニウム三・五~六・五%、クロム一二~一七%、鉄四%以下、チタン〇・五~四%、コバルト二〇%以下、炭素〇・二%以下、ほう素〇・〇五%以下、ジルコニウム〇・一五%以下(審決に「ジルコニウム〇・一五%」とあるのは誤記)、マンガン〇・二五%以下、けい素〇・五%以下、銅〇・五%以下、残部ニツケルからなり、硬化相がほぼ均一に主相マトリツクス中に分散し、該硬化相の大きさは本質的に数ミクロン以下で、該マトリツクス相は本質的に五〇ミクロン以下であることを特徴とする、高強度を有するニツケル基合金。

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